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家康の遺訓を読もうと思ったら、博物館のページに小野鵞堂という人の名前がある。あれ、家康の言葉じゃなかったの?と立ち止まったら。
まず、文章の由来と、目の前の書を誰が書いたかを分けて見てください。有名な「人の一生は……」の教訓を、そのまま家康の自筆の遺言として紹介するのは適切ではありません。東京国立博物館所蔵品の公開解説は、家康への後世の帰属を説明しています。
しかも、「家康公御遺訓」という似た名前の別の文書もあります。こちらは内容が違うんです。ここ、ひと続きの話にすると迷いやすいところ!
今回は公立図書館と国立博物館の公開資料を使って、何を同じものと考えてよいかを整理します。読み方が分かると、家康の名言を集める楽しみから、言葉が伝わった道をたどる楽しみへ、もう一歩進めますよ。
有名な教訓は、家康の自筆と決めずに読もう
「人の一生は……」で始まる教訓を見て、長い戦いを経験した家康が、自分の人生を振り返って書いた文章なのかな、と想像することはあるでしょう。けれど、その場面を歴史上の出来事として描くには、裏付けが要ります。
文化遺産オンラインの「家康公遺訓」は、東京国立博物館が所蔵する書の情報です。筆者は小野鵞堂、作品の年代は明治〜大正時代とされています。家康の生きた時代に本人が書いた紙、という案内ではありません。
同ページは文章の由来についても、水戸の徳川光圀の言行をもとに家康へ仮託され、明治期に広まったと考えられる、と説明しています。仮託は、ここでは家康に結び付けられて伝えられた、と読むと話を追いやすいでしょう。
だから、家康の名前の付いた書が見つかったことだけで、家康本人の発言や筆跡が確認できたとは言えないんですね。作品名、書いた人、文章が誰のものとして伝わるか。この三つが、同じ名前でそろうとは限りません。
ただ、この説明から、小野鵞堂がその文章を全部考案した、と飛び越えないでください。作品の筆者欄で分かるのは、その書を誰が書いたとされるかです。文章の成立過程には、別の説明が必要になります。
たとえば、読書メモに「家康の遺訓、小野鵞堂筆」と書く。ここまでは作品の情報を整理できます。その後ろに「文章は後世に家康へ帰属したと説明される」と一行足せば、自筆作品と混同しにくいでしょう。
家康の人物像を紹介する文章でも、同じです。「晩年の家康がこう悟った」と内面を付け足す前に、その言葉の出所を見よう。読んだ自分がどう感じるかは書けますが、それを家康の経験から直接生まれた言葉だとするには、もう別の根拠が要ります。
こういう違いを、古文書の写真や解説と一緒にたどりたい人には、『江戸時代の古文書を読む 家康・秀忠・家光』が候補になります。公開目次に「徳川家康の遺訓」があることを確認できる本です。今回確認した楽天の候補は中古本なので、状態も見て選んでくださいね。
「家康公御遺訓」は別の内容。まず書名より、どの資料かを確かめよう
では、「家康公御遺訓」という本が図書館にあるなら、有名な教訓の原本なの?
そこは、名前だけでは決まりません。愛知県図書館の資料番号000128は、「人の一生は……」の文章とは内容が違う、と明記しています。似た名前の資料を検索で見つけても、別の文書の可能性があるんです。
図書館の解説では、井上正就が家康から秀忠へ伝えるよう受けた教訓とされるものを扱っています。ただし、この紹介にある伝承を、家康がその場で話したことを直接記録した確実な証言へ変えてしまわないように。解説には、成り立ちをめぐる研究と、なお残る不確かさも示されています。
読み始めにすることは、家康の名前をもう一度検索するより、見ている資料の番号を残すことです。今回なら、愛知県図書館の000128。所蔵先と番号があると、あとで同じ資料へ戻れます。
書名は「家康公御遺訓」、統一書名は「東照宮御遺訓」と記されています。別の目録で後者を見つけても、知らない別作品がまた増えた、と慌てなくて大丈夫。同じ文書のまとまりに、別の呼び方が使われる場合があります。
逆に、同じ呼び方だから本文も一字一句同じ、と決めるのも早いです。愛知県図書館は、伝わる本によって条数や内容などが異なることを説明しています。いま見ている一冊が、その文章のすべての形を代表するとは限りません。
自分で比べるなら、最初から全文を読み切ろうとするより、見たい問いを一つ選ぶと進めやすいです。有名な教訓と同じ文章なのか、誰へ伝える話なのか、どんな条立てなのか。答えを探す箇所が違うので、まず問いを決めよう。
なお、目録にある江戸中期という年代は、この所蔵本が書き写された時期の説明です。その数字をそのまま、教訓が最初に生まれた年や、家康が話した年へ置き換えないでください。紙に残る一冊の年代と、その内容が成立した時期は、別々に調べる必要があります。
こうして見ると、名前が少しややこしいだけで、整理する手順は具体的です。所蔵先と資料番号を控える。内容説明を読む。年代欄が何の年代かを見る。三つが分かると、違う文書同士を混ぜた読書メモを防ぎやすくなります。
今回紹介する本は、愛知県図書館の解説でも、調べるための参考文献に挙げられています。言葉だけを抜き出すより、解説をたどりながら読む入口として選べます。
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江戸で尊重されたことも、調べる手がかりになる
家康本人の言葉として確定できないなら、もう読むところはない?
いえ、まだ続きがあります。誰が最初に言ったかを考えるほかに、後の人がどのように受け止めたか、という問いも立てられます。
愛知県図書館の解説は、竹内誠氏の研究に触れ、将軍が家康の命日に当たる毎月17日に御遺訓を聞く慣例や、さまざまな家への伝来を紹介しています。これは、先ほどの「東照宮御遺訓」をめぐる説明です。有名な短い教訓が、そのままその場で読まれたと置き換えないようにしよう。
ここから見えてくるのは、後の時代の人々が、家康の教えとして文書を重く受け止めたことです。本人が書いたかという問題を保留したままでも、後世の扱われ方を調べることはできます。
たとえば、歴史の読書ノートを二つの欄に分けてみる。一つは「家康本人について分かったこと」、もう一つは「後の人々が家康をどう語ったか」。有名な教訓の話を後者へ置けば、文章を捨てずに、位置を変えて読み続けられます。
この分け方をすると、感想も書きやすいです。言葉が自分の生活に響いた、という感想と、家康が実際にそう言った、という歴史の説明を、一つの根拠で押し通さなくて済みます。心に残ったところは残して、出所の説明は正確にする。両方できますよ。
また、家康の人物像を語る記事を読むときも、そこで紹介されるのが本人の文書なのか、後世の伝承なのかを見てみてください。同じ人物の話でも、資料が変わると答えられる問いが変わります。
今回の公開資料では、小野鵞堂の書、愛知県図書館の写本、それぞれに違う時代と背景があります。二つを並べるときは、文章の内容だけでなく、誰がどんな形で伝えたものかにも目を向ける。そうすると、家康の死後にも、家康像が受け継がれていく様子を調べる入口になります。
もっとも、この二点だけで、教訓が日本中へ広まった経路をすべて説明できるわけではありません。最初の一人、最初の年を知りたいなら、その問題を扱う研究まで進む必要があります。今回の資料にない作者名や成立年を、空欄が気になるからと埋めないでおこう。
文書の歴史を、元の形と後の解釈を見ながら読んでみたい人には、影印と解読文、読み下し文、解説を付す『江戸時代の古文書を読む』のつくりが参考になります。これは徳川林政史研究所が公開するシリーズ案内で確認できる構成です。
後世への伝わり方も考えながら読む、家康・秀忠・家光の巻を楽天で確認する
「自筆」と付く作品名でも、解説には確かさの幅がある
もう一つだけ、名前を見て即答しない練習に、別の資料を見てみましょう。京都国立博物館の「徳川家康自筆日課念仏」です。台帳番号はB甲893。
自筆、と名前に入っています。なら、これは家康が書いたと確定している?
解説を読むと、家康の生きていた時期のものではあるが、家康が書いたとする確実な証拠はない、と説明されています。一方で、伝承を簡単に捨て去ることもできない、という見方も示されています。作品名だけで止めずに読む意味が、ここではっきりしますね。
これは有名な教訓とは別の資料です。小野鵞堂の書の説明を、この日課念仏へそのまま当てはめることはできません。家康に関わる品は全部同じ確かさ、という扱いにしないでください。
この資料のように、時代についての説明と、筆者についての説明が違う強さで書かれることがあります。家康が生きていた時代の紙に書かれていると分かっても、書いた人まで同時に分かるわけではない。確かめたいのが年代なのか筆跡なのかで、必要な根拠が変わるんです。
読書メモには、結論だけでなく、解説の確かさも残しておこう。「確実な証拠はない」「と伝えられる」「と考えられる」といった部分です。そこを全部取って、家康が書いた、と短くしてしまうと、元の説明より強い主張になります。
文章を短く紹介したいときほど、主語も一緒に残すとよいでしょう。博物館はどう説明しているのか、研究者はどのように推測しているのか。自分の解釈を加えるなら、その後へ続ける。誰の判断を読んでいるかが見えます。
現物の筆跡を自分で鑑定できなくても、公開解説の留保を丁寧に読むことはできます。まずはその一歩で十分です。古い字を全部読めるようになるまで、資料を見る楽しみを待たなくていいんですよ。
紹介する本の公開案内には、家康の遺訓を扱う章があります。ただし、この日課念仏の個体が同書で詳しく取り上げられるかまでは確認していません。本は家康時代の文書を読むための入口として案内し、この資料の説明は上の博物館ページで確かめてください。
本を選ぶなら「家康・秀忠・家光」の巻。まず一つの疑問から
もう少し読んでみたいと思ったら、『江戸時代の古文書を読む 家康・秀忠・家光』を候補にしてみてください。東京堂出版の本で、ISBNは9784490207866です。同じシリーズには「元禄時代」「享保の改革」などの巻もあるので、主題の三人の名前まで確かめてね。
徳川林政史研究所の出版案内と版元提供の書誌・目次で、該当巻と「徳川家康の遺訓」の章を確認できます。竹内誠氏が担当する章です。書籍全文を読んだ感想ではなく、公開目次とシリーズの構成を根拠にした選書案内です。
この本を選ぶ理由は、家康という名前が表紙にあるからだけではありません。いま気になっている遺訓を扱う章があり、古文書の形と、読むための文章、解説へ行き来できる構成だからです。図書館の短い解説から、もう一歩進みたい人の入口になります。
宇都宮市立図書館の調査回答は、この本の18〜46ページを案内し、有名な教訓と別の御遺訓の冒頭などが載ると報告しています。二つをどう違えて読むか、という今回の疑問に合う参考文献だと確かめられますね。ページの内容は、図書館による確認の報告として紹介しています。
読み始めも、最初のページから全部を理解しようと構えなくて大丈夫。まず、いまの疑問を一行で書いてみよう。有名な教訓と別の御遺訓はどう違うのか。家康の名前が、どのように文書と結び付いたのか。問いが一つあると、解説で探すものが見えます。
影印で文字の並びや紙面を見て、解読文や読み下し文へ戻り、分からないところは解説と合わせる。そういう読み方を試せます。原本の文字を見たことと、内容を読み取れたこと、その由来まで確認できたことを、少しずつ積み上げていこう。
今回楽天で確認したのは、中古の単行本の販売候補です。商品ページには状態区分の説明があり、「可」では書き込みなどがある場合があると案内されています。書き込みを避けたい人は、実際に選べる商品の状態を見て、必要なら販売店に確認してください。写真の帯も付属するとは限りません。
価格や到着日は注文時点の表示で判断してください。本のISBNが合っているか、目的の巻か、読める状態か。この三つがそろえば、商品名が長い中古本のページでも、見たいところを絞れます。
家康の言葉だと思っていたものに、違う人や違う時代が見えてくる。そこでがっかりして本を閉じる前に、いま目の前にある資料へ戻ってみよう。
誰が書いたのか。いつ書かれたのか。誰の教えとして受け取られたのか。次に一つ分かるだけでも、同じ「家康の遺訓」が、前より立体的に読めるはずです。